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定まらない立ち位置からみた、「パウル・クレー展 ── 創造をめぐる星座」


社会人大学生として3年目となっている今年度、1月下旬に卒業研究を提出した。

社会学、哲学、オープンダイアローグ、社会構成主義、動的平衡など、興味関心をもったキーワードを行ったり来たりしながら、卒研で取り上げる対象を観察し、考察を試みた。

結果が出るのはもう少し先で確定ではないけれど、卒研が手を離れたことで、途端に現実味を帯びる卒業の文字。

「卒業したら、次はどうするのか?」

人に聞かれることもあれば、ふとしたときに自問自答することも。

「特に何も考えていないなぁ」と言葉を濁すこともあるけれど、正確には散らばっている点をどのように結びつけたらいいのかがわからず立ち尽くしている状態、といえるのかも。

迷いは大いにあるものの、卒研が終わった解放感もあり、先日、愛知県美術館へ「パウル・クレー展 ── 創造をめぐる星座」をみに行った。

私のクレーのイメージは、重たい作品もあるけれど、リズムのある豊かな色彩から、まるで夢の中にいるような幻想的な作品を描く芸術家、というもの。

なので、今回の展覧会で初期のクレーは色彩表現が苦手で、シンプルな線を用いた作品が主だったことに驚いた。 展示作品no.1の《樹上の処女》は「これがクレーなの!?」と、持っていたクレーのイメージを覆され、思わずじろじろと見入るほど。1914年のチュニジア旅行で「色彩が私を捉えたのだ」と記していたという解説を読んで《チュニス赤い家と黄色い家》や《ハマメットのモティーフについて》をみると、色彩表現が飛躍的に増していて、旅が与えた影響力の大きさを実感する。

そんなふうに、クレーの作風は20世紀前半の美術動向や同時代に活躍した他の芸術家たちとの交流もあって、色彩表現や色彩による画面構成と、どんどん変化していく。

クレーの言葉に「芸術とは目に見えるものを再現することではない」があるという。その言葉通り、目の前の風景をありのままに描く(再現する)のではなく、その内側にあるものを描き出す。対象を再構成していく姿勢が特に印象に残った。なかでも、ハサミを使って切断と再構成を行った《アフロディテの解剖学》は衝撃的だった。

目の前の1作品(特に抽象画)だけを見て「うーん、よくわからない……」と思っていたけど、クレーが目にしている世界の再構成として考えると、また印象が変わってくる。

今回の展覧会のタイトルには「創造をめぐる星座」とある。様々な点を結ぶことで、何らかの形が浮かび上がってくる。たまたま読んでいた『多様性の時代を生きるための哲学』では、著者の鹿島茂がベンヤミンの同時的弁証法を引き合いに出し、「なにかしらの類似点が一つでもあると、それが核になってコンステラシオン(星座)を構成するという」。

クレーの創造の軌跡と結びつけるなら、自分は今ある点をどういった類似点を核にして、未来という星座を描いていくのだろう?そんなことを思った。