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飛生芸術祭


北海道・白老町にある小さな集落、飛生。そこでは年に一度、閉校した小学校の校舎とその裏手にある森を舞台に飛生芸術祭が開かれる。

芸術祭は2009年に始まり、2011年からは「飛生の森づくりプロジェクト」によって、廃校と共に荒れ果てた森を人々が集い再び創造できる場へと生まれ変わらせている。

森づくりにはアーティストや地域住民、地域外から訪れた者が関わり、そこで共有されているのが「黒い鳥」の物語。周囲の森を飛生の語源の一つである「黒い鳥」が住む場所に見立て、森づくりに物語を取り入れることで関わる人々の間に共通認識が形成される。そして森全体が一つの作品として捉えられ、年月をかけて作品がつくられていく。

森を訪れると、参加アーティストはさまざまなのに作品同士に不思議と一体感があった。国松氏は普段はつくらない作品をここではつくっていると話すように、アーティストらは黒い鳥の物語を発想の起点にする。その土地ならではの作品をつくるからこそ生まれる一体感であることが、作品を実際に見ることでより伝わってきた。

いろいろと写真に撮ってみたものの、飛生芸術祭の作品は森の空間と密接に関わっているから写真で切り取ることが難しい。空間も含めての作品だということがよくわかる。

白老地区では飛生芸術祭だけでなくルーツ&アーツしらおいプロジェクトも行われていて、その一つに「歩いて巡る屋外写真展」がある。虎杖浜・アヨロと社台の2つの海岸地域で、かつての姿を留めた写真を大きく引き延ばし旧倉庫などの外壁に展示するものだ。

私が訪れた虎杖浜エリアではそこに住む人々のかつての浜の暮らしを見ることができ、過去と現在の風景が写真を通して重なっていた。なによりも老若男女問わずあふれる力強さがカッコよい。 

両者の作品を観ながら、先日観たシアスター・ゲイツ展を思い出した。自身の陶芸への取り組みを、日本や中国、韓国の陶磁器の歴史との関係をたどりながら自分のプロジェクトに紐づけていたこと。また、アメリカの公民権運動の一翼を担ったスローガン「ブラック・イズ・ビューティフル」と日本の「民藝運動」の哲学を融合させてアフロ民藝という新たなカタチを生み出していたこと。  

アート作品は歴史とは切っても切り離せず、表出の仕方に反抗や敬意といった違いはあってもそれまでの積み重ねの上に成り立つ。白老地区のアート作品は、その土地の歴史を受け継ぎ発展させていて、町中にある作品として理想的だなと思った。